歯科医院に通うとき、「治療費は医療費控除の対象になるのか?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。
実際に私自身も、受付で何度か質問された事があり、家族からも聞かれたことが・・・
今回は、保険診療・自費診療を含めた治療費の扱い、歯列矯正や通院費、そして歯科ローンでの支払いに関する医療費控除のポイントを整理しました。
医療費控除とは?基本の仕組み
医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税や住民税が軽減される制度です。
控除を受けられる条件
- 年間の医療費が10万円を超えた場合(総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%を超えた場合)
- 確定申告が必要です(会社員の方も自分で申告する必要があります)
金やポーセレンを使用したクラウン(かぶせ物)や義歯など、現在広く行われている一般的な治療は対象となります。
医療費控除を利用すると、支払った所得税の一部が還付され、翌年の住民税が減額されます。
医療費控除の対象となる歯科治療とは?
歯科治療にかかる費用のうち、歯科医師による診療や治療の対価で「治療として一般的に行われている水準」のものは、原則として医療費控除の対象になります。
対象となる治療の例
保険診療
- 虫歯や歯周病の治療
- 抜歯
- 保険適用の詰め物・被せ物
自費診療
- 金歯やセラミックを使用したクラウン(被せ物)
- ポーセレン(陶材)の詰め物
- 保険適用外の義歯(入れ歯)
- インプラント治療(機能回復が目的の場合)

自費診療であっても、同じ治療法の中で著しく高額でない一般的なものであれば控除対象です。例えば、金を使用した被せ物でも、治療に必要な範囲内であれば認められます。
対象外となるもの
- 美容目的の治療(ホワイトニングなど)
- 歯ブラシ、デンタルフロス、歯磨き粉などの物品購入費
- 予防目的のみのクリーニング(治療に付随しない場合)
これらは治療ではなく、日常生活用品や美容・予防にあたるため控除対象外です。
矯正治療はどう扱われる?
歯列矯正は、治療の目的によって扱いが変わります。
控除対象となるケース
子どもの成長を阻害する不正咬合の改善
発育段階にあるお子さんの噛み合わせや顎の成長を正常にするための矯正治療
成人でも機能改善が目的の場合
噛み合わせの異常により咀嚼機能に問題がある場合や、顎関節症の治療として行う矯正など
控除対象外となるケース
- 容姿を美しくすることを主な目的とした審美的な矯正治療
判断のポイント
歯科医師が診断書で「治療の必要性」を明記している場合は、控除対象として認められやすくなります。不安な場合は、治療開始前に歯科医院で相談することをお勧めします。
通院費も医療費控除に含まれます
治療のために通院する際の交通費も、医療費控除の対象です。
対象となる交通費
- 電車・バスなどの公共交通機関の運賃
- 小さなお子さんの付き添いが必要な場合、付添人の交通費も含む
- 電車・バスの利用が困難な場合のタクシー代(骨折や重病など、やむを得ない事情がある場合)
対象外となる交通費
- 自家用車のガソリン代
- 駐車場代
- 単なる便利さからのタクシー利用
記録の残し方
公共交通機関は領収書が出ないことがほとんどです。そのため、通院の都度、以下の情報をメモしておきましょう。
- 通院日
- 利用した区間(自宅〜○○歯科医院)
- 交通費の金額
私が患者さんにアドバイスするときは、治療の領収書だけでなく、診察券や交通費の記録を残しておくことをお勧めしています。年末にまとめて集計しようとすると忘れがちなので、日々のメモが大切です。
歯科ローンやクレジット払いは控除できる?
インプラントや自費の矯正治療などは高額になるため、歯科ローンやクレジット払いを利用する方も少なくありません。
歯科ローンの扱い
信販会社が立て替え払いをした年に、その治療費全額を医療費控除の対象として申告できます。
重要なポイント
- 実際に自分が分割払いをしているのは翌年以降でも、信販会社が歯科医院に支払った年に控除を受けられます
(2025年12月に治療を受けローン契約 → 2026年の確定申告で2025年分として申告可能) - 利息や手数料は医療費に含まれません(治療費本体のみが対象)
必要な書類
歯科ローンを利用した場合、領収書が手元に残らないことがあります。そのため、以下の書類を必ず保管しておきましょう。
- 歯科ローンの契約書(写し)
- 信販会社の領収書または立替金の明細書
- 歯科医院が発行する治療費の明細書
これらが確定申告での証明書類となります。
クレジットカード払いの場合
クレジットカードで一括払いまたは分割払いをした場合も、実際に支払った年の医療費として控除対象になります。カード会社の利用明細や領収書を保管してください。
確定申告の方法と時期
医療費控除を受けるには、確定申告が必要です。
申告時期
- 毎年2月16日〜3月15日(翌年の確定申告期間)
- 還付申告の場合は1月から可能
申告方法
- 医療費控除の明細書を作成(領収書の合計額を記入)
- 確定申告書に記載して税務署に提出、またはe-Taxで電子申告
- 領収書は自宅で5年間保管(提出は不要ですが、税務署から求められた場合に提示)
注意点
医療費控除とセルフメディケーション税制(市販薬の控除)は、どちらか一方しか選択できません。どちらが有利か計算して選びましょう。
まとめ|歯科治療費を正しく申告して節税につなげましょう
歯科治療の医療費控除は、以下のように整理できます。
対象となるもの
- 保険診療・自費診療にかかわらず、一般的な治療費用
- 子どもの成長阻害を改善する矯正治療、成人でも機能改善目的の矯正
- 公共交通機関による通院費(付添人分を含む)
- 歯科ローンの治療費本体(契約した年に計上)
対象外となるもの
- 美容目的の矯正・ホワイトニング
- 歯ブラシなどの物品購入費
- 自家用車のガソリン代・駐車場代
- ローンの金利・手数料
歯科治療は家計に大きな負担になることもありますが、正しく申告すれば控除により税金が軽減されます。年間10万円を超える医療費を支払った場合は、ぜひ確定申告を検討してください。



審美やホワイトニングなど接客業では対象とされないの?



実は、芸能人やホステスなど職業上の必要性から行う美容的な歯科治療については、医療費控除の対象外とされています。



国税庁の見解には、
容貌を美化するための歯列矯正やホワイトニングは、たとえ職業上必要であっても医療費控除の対象にはなりません。
これは、「治療」ではなく「職業上の経費」と見なされるためです。



個人事業主であれば、医療費控除ではなく事業所得の必要経費、または特定支出控除などで計上できる可能性がありますが、税理士に相談する等ハードルは高いと思います。
現役歯科衛生士として患者さんに寄り添う立場からも、少しでも無駄なく治療を受けていただければと思います。
疑問がある場合は、最寄りの税務署や国税局電話相談センター(国税庁ホームページに電話番号記載)など公的な窓口に相談すると安心です。
治療の選択と同じように、税制の仕組みも味方につけて、健康と家計の両立を意識してみてくださいね。
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